インタビュー
ブラッスリー セルクル
オーナーシェフ
きむら まどかMadoka Kimura
新篠津つちから農場
代表取締役
中村 好伸Yoshinobu Nakamura
Profile
きむら まどか

石川県金沢市出身。無添加・無化調(化学調味料不使用)、野菜料理を中心としたレストランを手がけ、2010年に独立。
2011年「ブラッスリー セルクル」オープン。
現在、菓子製造や惣菜・ソース製造、冷凍食品製造なども広く手がけている。

受け継がれるおいしいストーリー。
共鳴し合う引き算の発想。

伝説のシェフ、ノブ・ハヤシ氏から受け継がれる「引き算の調理」が素材のポテンシャルを最大限に引き出し、美食家を虜にしてやまない「ブラッスリー セルクル」。つちから農場の特別栽培玉ねぎ「ねを」を使ったオニオンスープはセルクル自慢のスペシャリテ。その美味が誕生した背景には、きむらさんと中村さんを結びつけた不思議なストーリーがありました。

伝説のシェフが認めた玉ねぎに、
20年の歳月を経て巡り会った。

きむら 20年ほど前にマネージャーを務めていた店のシェフ、ノブ・ハヤシが全幅の信頼を置いていた有機栽培玉ねぎがありました。2011年にハヤシと二人三脚で「ブラッセリー セルクル」をオープンしてからもその玉ねぎを使い続けていましたが、開店から1年足らずでハヤシが急逝。玉ねぎを仕入れていた青果卸商もなくなり、普通の玉ねぎに変えて私が厨房を引き継いで今に至ります。中村さんが来店してくださったのは2019年でしたね。

中村 知人の誘いでセルクルを訪れ、料理を一口食べた瞬間「あっ!」と思いました。シンプルなナスのグリルでしたがなんとも滋味豊かな味わいで、「素材をここまで活かしきる人にうちの玉ねぎを使ってもらいたい」と直感したんです。

きむら 中村さんからお誘いをいただいて農場見学に行き、倉庫に入ると甘酒みたいな良い香りがしてびっくり!発酵させたボカシ肥料の力で良い玉ねぎができると聞いて納得しました。そして資材庫の段ボール箱を見てさらにびっくり!20年前にハヤシが認めた「あの玉ねぎ」だったんです。

中村 つちから農場の前身である佐藤農産の頃からうちの玉ねぎを使ってくださっていたと知り、私も驚きました。

きむら ドラマのような偶然でしたね。「あの玉ねぎを受け継ぐ中村さんなら間違いない」と確信し、それ以来「ねを」を使わせていただいています。

厚い皮に包まれた果肉に栄養がぎっしり。
糖度の高さも圧倒的。

きむら 「ねを」と普通の玉ねぎは全く違います。「ねを」の皮はしっかり厚くて剥くのが大変なほど。そして根元を切ると水分がピューッと吹き出してくるほどジューシーです。

中村 必要以上に手を加えずに育てると、玉ねぎは水や栄養を求めて地中深く根を張ります。そうやってたっぷり蓄えた自然の栄養を逃さないよう、厚い皮でしっかりと身を覆うのでしょうね。普通の玉ねぎを長期間保存すると芽が出てきますが、「ねを」は先に根が出てきます。これも土から栄養を取り込もうとする生命力の表れだと思います。

きむら 「ねを」はオニオンスープにした時にすごい威力を発揮します。普通の玉ねぎ10kgでスープを仕込むととんでもない時間がかかるけど、「ねを」を使うと半分の時間でできるんです。それは圧倒的に糖度が高いから。糖度が高いとカラメル化しやすいので、メイラード(褐変)反応が早く表れるんです。セルクルのオニオンスープは玉ねぎとバターと塩のみ。玉ねぎ本来の味を知ってほしいから余計なものは入れません。常連のお客さまも玉ねぎを変えたらすぐに気づいたほど、「ねを」にはパワーがあります。

スープに凝縮された「ねを」の魅力を、
多くの人に味わってほしい。

中村 きむらさんは飲食業だけでなく、スイーツや調味料などの製造販売も広く手がけていらっしゃいますね。

きむら 開店当初からいずれは食品製造事業を展開したいと考えていて、4年前に菓子・惣菜・ソース・冷凍の製造免許を取り、シュークリームをメインに製造・販売を始めました。しかし今年に入って新型コロナウイルスの影響で道外の物産展が軒並み中止に。これを機に惣菜やソースを充実させようと考え、冷凍オニオンスープを開発しました。他の玉ねぎなら考えなかったけど、「ねを」ならいつか商品化したいと思っていたんです。お店で提供する料理と違い、ご家庭で召し上がっていただく商品は誰が作っても同じ味になるように製造しなければならないので、当店では素材の配合比率をデータ化して品質管理しています。今後はバターを植物性油脂に代えたヴィーガン対応の商品展開も検討中。より多くの方々に「ねを」の魅力を味わっていただきたいですね。

商品価値を高めるストーリー、
引き算の発想で生み出すおいしさ。

きむら 生産者とつながり、自分が作ったもので生産者に還元できる価値を生み出したいと願ってきましたが、今こうして形にすることができてうれしく思います。一生会えない人の方が多いのに、20年の時を経て「ハヤシが認めた玉ねぎ」を受け継ぐ中村さんに巡り会えたのはすごいことですね。

中村 商品が良いのは当たり前ですが、リピーターに長く支持されるためにはプラスαの価値が必要です。初めてセルクルを訪れた時、ハヤシさんのエピソードを知らないのに一口食べて「あっ!」と感じたのは、セルクルのストーリーごと味わったためかもしれません。セルクルの料理に宿るストーリーは、素晴らしい価値だと思います。

きむら ハヤシが作るフレンチは複雑な味の掛け合わせではなく、食材と徹底的に向き合う「引き算のフレンチ」でした。ハヤシは亡くなってしまいましたが、彼の料理や食材に対する思いは今もセルクルに生きています。

中村 私は先代から農場を引き継いだ後、資材や栽培法をできるだけシンプルにして現在の形になりました。いわば「引き算の農業」。深い共感を感じます。これからセルクルからどんなおいしいストーリーが生まれるのか、楽しみです。

Information

ブラッスリー セルクル

マダムが自分の目で見極めた食材を自ら買い付け、独自の調理技術を駆使して素材本来の魅力を最大限に引き出す本格料理が評判。洋菓子店「シューセルクル」も展開するほか、物産展やECサイトで「ねを」を使ったオニオンスープをはじめとする惣菜や調味料なども販売しています。

極上のオニオンスープ(6食入)
¥3,500(税込)