北海道浦河町出身。レストランを営む父の背中を見て育ち、高校卒業後に料理の道へ。札幌市内および東京都内のレストランを経て、2007年「ミクニ サッポロ」に入店。副料理長を務めたのち札幌市内のレストランなどでキャリアを積み、2018年4月よりフレンチレストラン「ミクニ サッポロ」料理長に就任。
北海道浦河町出身。レストランを営む父の背中を見て育ち、高校卒業後に料理の道へ。札幌市内および東京都内のレストランを経て、2007年「ミクニ サッポロ」に入店。副料理長を務めたのち札幌市内のレストランなどでキャリアを積み、2018年4月よりフレンチレストラン「ミクニ サッポロ」料理長に就任。
自然と同化したフレンチ「キュイジーヌ・ナチュレ」の第一人者、三國清三シェフのエスプリを継承する二本柳さん。「ねを」と出会った感動が、香味野菜として捉えられがちな玉ねぎを主役に据えたスペシャリテを生み出しました。つちから農場の畑を見つめるふたりを結びつけているのは、食材と真摯に向き合うプロフェッシェナルの矜持です。
二本柳 「ミクニ サッポロ」は北海道の旬の食材を大切にしており、私も生産の現場を自分の目で確かめたいという思いから、なるべく現地へ足を運ぶようにしています。中村さんは土の力で素材そのものの力を引き出し、少しだけ手を貸してあげる姿勢を貫いている点にとても惹かれました。つちから農場を見学させていただいて驚いたのは、発酵ボカシ肥料の香りの良さ。あれほどフルーティーな甘い香りがするとは知りませんでした。
中村 化学肥料を使えばコストや時間をかけずに玉ねぎが作れますが、当農場ではボカシ肥料や堆肥などをすべて自前で作っています。タンクに入れて一度かき混ぜ、1年間寝かせると良い香りのボカシ肥料ができるんですよ。
二本柳 倉庫の室温が高かったのは、室内を温めて発酵を促しているのですか?
中村 いいえ、ボカシ肥料そのものの発酵熱です。
二本柳 まさに微生物の力ですね。ボカシ肥料そのものに命が宿っているんですね。
中村 実は僕は“なんちゃって料理男子”で、少しだけ調理師に憧れたこともあるのですが、二本柳さんのプロの技とセンスには驚かされます。「ねを」を使った料理をいただいて、土に埋まっていた玉ねぎとは思えない洗練されたフレンチでありながら、「ねを」の個性がしっかり引き出されていて感服しました。
二本柳 若い頃はいかに技術を駆使して素材の形を変え、複雑な味わいを生み出すかに力を注いでいました。でも最近は「素材そのものを大切にする」と考えるようになったんです。最近はなるべく手をかけすぎすシンプルな味付けで素材の良さを引き出し、組み合わせで変化をつける方向にシフトしています。馴染みの青果卸商の方から紹介していただいた「ねを」には、素材としてのすごいパワーを感じました。それまでは玉ねぎは香味野菜としてスープを取ったり、ソースのベースに使う程度で、食材として真剣に向き合ったことがなかったんです。しかし「ねを」は主役になる料理が作れると直感しました。
中村 昨シーズンのコースの前菜として登場した「玉ねぎのムースリーヌ 知床鶏のコンソメジュレ」ですね。まさに「ねを」の魅力か集約された逸品でした。
二本柳 なめらかな口どけのムースリーヌ、サクサク・ふわふわのオニオンリング、シャキシャキとした焼き玉ねぎ、3つの調理法で「ねを」を堪能していただく一皿です。「ねを」は揚げたり焼いたりしても玉ねぎがしっかりと主張する香ばしさがあり、甘みだけでなく食感や力強さが感じられる。それが「ねを」の魅力だと思います。
中村 「ねを」はそのまま食べると辛味が強いのですが、辛味の中に野菜の栄養=「滋味」を感じることができる。それは土中の栄養を根からしっかり吸い上げている証なんですね。それで「ねを」にパワーを感じていただけたのかもしれません。
二本柳 「ねを」の玉ねぎらしい魅力を、料理を通してしっかりとお客さまに伝えることが料理人の務めだと感じています。中村さんが土とじっくり向き合って育てた玉ねぎを、他の玉ねぎと同じように捉えられてしまっては意味がないですから。僕は料理に対して「臭みがない」「くせがない」と言われるのはあまり好きではなくて、素材が持つ個性を活かしきった料理で「おいしい」と言わせたい。「ねを」の良さを絶対に殺さず、「玉ねぎらしい料理」でお客さまを納得させたいと思っています。
中村 生産者としてこんなにうれしい言葉はありません。「生産者のこだわり」という言葉をしばしば耳にしますが、おいしいかどうかは食べた人が決めること。「こだわり」にこだわるあまり独りよがりになってはいけないと、常々自らを戒めています。知人の娘さんが他の玉ねぎは食べないのに「ねを」だけは食べると聞き、下手なものは作れないなと衿を正す思いです。
二本柳 今日は中村さんとじっくりお話ができてよかったです。生産者さんの考えや姿勢を知ると知らないとでは、食材に対する向き合い方も仕上がる料理も全然違いますから。これからもこういう機会をどんどん増やしていきたいと思います。
中村 こちらこそわざわざ農場まで足を運んでいただき、とても感謝しています。自ら畑に来てくださる方はとことん素材に向き合い、どうにかしておいしい料理を作りたいと真剣に思ってくれているから、信頼して「ねを」を託すことができます。どんなに良い食材を作っても、消費者へ伝えてくれる方がいなければ良さを知ってもらえない。料理人の皆さんは私たちの大切なパートナーだと改めて実感しています。料理人の皆さんに私の考えを理解していただき、私も料理人の皆さんが求めるものを知ることで、お互いにもっと良いもの、おいしいものを作っていければいいなと思います。これからもよろしくお願いいたします。
北海道出身のフレンチシェフ、三國清三氏がプロデュースするフランス料理店。四季折々の北海道産素材の持ち味を最大限に生かした彩り豊かな料理を堪能できます。数々の美食家をうならせた「新篠津 中村さんの『ねを』玉ねぎのムースリーヌ 知床鶏のコンソメジュレ」など、日々進化を遂げる二本柳シェフの「キュイジーヌ・ナチュレ」にますます期待が高まります。